教育問題のトピックス

教育問題に関する論評です

2020年教科書採択での「育鵬社離れ」

f:id:education2000:20210906070717j:plain2020年夏の教科書採択では、中学校社会科歴史的分野、公民的分野ともに「育鵬社離れ」が進んだ。

育鵬社教科書とは

育鵬社の教科書は、いわゆる極右的・歴史修正主義的な立場から記載された記述、およびイデオロギー的な押しつけが目立つという問題がある。

また極端な立場の記述によることから、中学校で学習する内容を十分網羅できていなかったり一方的な記述が多く、普段の学習や受験にも支障をきたすなど、イデオロギー等を抜きにしても現場では「使いにくい」とされる評価があるとされる。

当時の「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書が2001年度に初進出し、2005年教科書採択では各地で採択例が相次いで大問題になった。その後「つくる会」は内部分裂し、当時の反執行部派の流れを汲み日本会議なども背後にいるとされる「日本教育再生機構」が発行する育鵬社版と、「つくる会」の旧執行部系の自由社版の2社へと分かれる形になった。

2010年代以降は育鵬社の採択が伸び、警戒されていた。

2020年教科書採択

2020年には、これまで育鵬社を採択していた自治体で、相次いで採択を取りやめる動きが生まれた。

採択地区単位では、横浜市、神奈川県藤沢市大阪市大阪府東大阪市などが採択を取りやめている。

冊数では、歴史は2020年度の7万2482冊(占有率6.4%)から2021年度の1万2533冊(1.1%)へと約8割減、公民は2020年度の6万1183冊(5.8%)から4287冊(0.4%)へと約9割減となった。

育鵬社離れ」の理由は

育鵬社離れの理由については、以下のような分析がされている。

教育学者の浪本勝年・立正大学名誉教授による分析では、大要で以下のようになっている様子。(『朝日新聞』2020年8月5日付を当方で要約)

1997年に「新しい歴史教科書をつくる会」が結成され、従来の教科書を「自虐的」と攻撃してきた。第一次安倍政権のもとでの2006年の改正教育基本法や、第二次安倍政権での2014年の教科書検定基準改訂によって、政権側の意向に沿った記述が求められるようになったことを背景に、「自虐的」とされた記述が減り、以前と比べて教科書間の差がなくなったと分析している。そのことを背景に、右派的な教育委員が育鵬社を無理して選ぶ必要がなくなったのではないか。

一方で、市民の運動という面にも目を向けるべきという指摘もある。

鈴木敏雄・子どもと教科書全国ネット21事務局長によると、大要で以下のような指摘をおこなっている。(『しんぶん赤旗』2020年10月20日付『育鵬社教科書激減したわけ』を当方で要約)

家永教科書訴訟で子どもの学習権・国民の教育権が認められたことをベースにして、教科書採択において教員の意見を反映させる仕組みが1990年代に広がった。一方で2001年に「つくる会」が自前の教科書をだし、その後自由社や「日本教育再生機構」の育鵬社に受け継がれた。同時期には教育行政が教科書採択を上から押しつけようとする動きも広がった。これらの情勢に呼応する形で、2000年代初頭から地域住民や教職員などが教科書採択の透明性強化を追及する動きも生まれた。

として、2020年教科書採択で育鵬社が激減したことは、長年の運動によるものと論じている。

純化できるものではないが

当方の私見では、確かに両方の側面があり、どちらか片方が正しくてもう一方が誤りということはないだろうとは感じる。

確かに経年でみれば、2000年代以降の20年ほどで教科書の右傾化による流れはある。特に安倍政権時代に教科書検定へのしばりが強められたことで、「普通の教科書」にも政権忖度的と思われる記述が巧妙に入り込む状況になっていることは否定できない。

そのあおりを受け、「露骨な右派的な教科書」を無理して選ぶ側面がなくなったというのも確かにあるだろう。

一方で無理して極端なものを選ばせないような状況を作り出してきたのも、市民の運動の取り組みの積み重ねによるものだという印象を受ける。

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